まっしろな遺書
 2015年3月22日

 十三は、萌の病室に向かった。
 萌は、相変わらずベッドの上で騒いでいる。

 そして、一瞬固まる。

「どうしました?
 胸、痛みますか?」

 銘が、心配そうに萌に尋ねる。

「大丈夫だよー」

 萌は、そう笑うと十三の方を見た。

「私、いちごミルク飲みたい」

「んじゃ、売店で買ってくるっす」

 太郎が、そう言うと萌は、太郎の手を握り締めた。
 十三は、前にもこんなことを思い出す。

「いいよ。
 俺が買ってくる。
 銘先生、ちと付き合ってください」

「はい」

 十三は銘と共に病室を出た。
 すると病室から、萌のすすり泣く声が聞こえた。
 十三たちは、少し遠回りをして売店へと向かった。

「萌さん、もうすぐ麻酔医が来て注射をするんだ。
 それまでに、いちごミルク届けてあげましょ」

「そうだね……
 でも、太郎と二人きりにさせてあげたい気もする……」

「難しいよね……」

 そんな話をしながら、売店に向かいいちごミルクを買ったあと萌が居る病室へと戻った。
 十三が、ドアに手を当てると萌のつらそうな声が聞こえてきた。

「怖いよ……
 ヤダよ……」

 それは、心の奥まで見せる事が出来る太郎だけへの弱音。
 銘のスカートを引っ張る小さな男の子と女の子。
 瓜と桃。

「お母さんの病気治る?」

 瓜が、銘の目をじっと見る。
 銘は、瓜の目線に合わせて答える。

「お姉ちゃん、全力を尽くすから!」

 銘は、そう言ってニッコリと笑った。

  銘先生、手術頑張ってくださいね。

 十三は、小さく祈った。
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