まっしろな遺書
 2015年3月23日

 萌の手術は、成功した。

 そんな現実がほしかった。
 だけど、神様言うヤツはそんなに優しくない。
 そんなのわかっていた。
 十三の頭がまっしろになる。
 今日の朝、太郎が十三の部屋にやって来た。

「十三さん、ちょっとふたりで話してもいいっすか?」

 太郎の表情が、強張っている。
 今にも泣きそうだ。

「ああ。
 いいよ。
 屋上に行こうか……」

「はい」

 十三たちは、無言で病院の屋上までやって来た。
 蝶がゆらゆらと舞っている。
 公園で子どもたちの遊ぶ声が聞こえる。
 静かではないが静かなる空気……
 十三は、わかっている質問をした。

「で、話って?」

「萌ちゃんのことです。
 萌ちゃんのガンなんですが、昨日の夜、組織検査の結果が出たんっす……」

「ああ……」

「段階評価が5に達成していたっす」

 奇跡と言うヤツを信じたかった。
 しかし、奇跡というものはなかなか起きない。

 段階評価が5のガン。
 つまりは、悪性の癌と言うことなのだ。

 太郎は、その場で泣き崩れる。
 涙で顔がぐちゃぐちゃになる。

「萌ちゃんは、このことを知っているのか?」

 太郎は首を横に振る。

「言えない、言えないっす……」

「そうか……」

「明後日、一時帰宅するんっす。
 それが、最後の帰宅になると思うっす」

「そうか……」

「退院の時、喫茶萌萌で、退院パーティーをやろうと思うっす。
 よかったら十三さんも……」

「ああ。
 参加するよ。
 小太郎にも声を掛けないとな」

「そうっすね……」

「太郎。
 泣いちゃダメだよ」

「え?」

「子供たちの前でも萌ちゃんの前でも絶対泣いちゃダメ。
 萌ちゃんも子供たちも不安がるから」

「そうっすね……」

 太郎が、涙を拭う。
 そして、笑顔を作る。
 しかし、十三にはその笑顔が苦しかった。
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