まっしろな遺書
 2015年3月25日

 今日は、萌の一時帰宅の日。
 萌には、これが最後の帰宅である可能性があることは知らされていない。

 十三も、その場に立ち会うことになった。
 十三だけでなく、小太郎も立ち会ってくれている。

 喫茶店は、臨時休業。
 十三たちの貸切状態。。

「お母さん!」

 瓜が、そう言って萌に飛びつく。

「もう、瓜はお兄ちゃんなんだから、甘えないの」

「だって……」

 瓜が、目を潤ませる。
 桃が、じっと萌の方を見ている。

「さぁ、桃もいらっちゃい」

 桃は、萌ちゃんの胸に飛び込んだ。
 そして、小さく泣いた。
 萌も暫くふたりを抱きしめたあと小さくこう言った。

「さぁ、ふたりとも何が食べたい?
 お母さん、なんでも作ってあげる!」

「お母さんのオムライスが食べたい……」

 瓜がそう言うと桃ちゃんも頷いた。

「そんなのでいいの?
 ステーキとか焼肉とか瓜も桃も大好きじゃない」

「お母さんのオムライスがいい……」

 桃が、そう言うと萌ちゃんはぎゅっとふたりを抱きしめた。

「わかった。
 十三君と小太郎君は、何か食べたいモノある?」

「俺らもオムライスがいいな。
 久しぶりに萌ちゃんのオムライスが食いたいしな」

 小太郎が、そう言った。
 十三もそれに同意した。

「そう。
 わかった!私頑張っちゃう!」

 萌は、エプロンを着けると手際よくオムライスを作った。
 卵はふわとろ。
 軽くつつくと中身がトロっと溢れる。
 そして、口の中に運ぶとそっと溶ける。

 瓜も桃も笑顔をこぼしながら食べた。
 十三も小太郎も笑顔があふれる。

 しかし、太郎だけは泣きそうな顔をしていた。

 大切な人を失う。
 その恐怖は、十三にはわからない。
 しかし、それが恐ろしいことなのだということはなんとなくわかった。
 それなのに自分でその命を絶とうとした。
 それは、重いことなのかもしれないことを十三は感じていた。
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