まっしろな遺書
「詩空さん、おはようござます」

 今日も昨日と同じ看護師が同じ時間くらいにやってくる。

「あ、看護師さんおはようございます」

 十三は、軽く頭をさげた。

「点滴をしにきました」

「あ、はい」

「もうバカなことしちゃダメですよ?」

 十三は、少しうんざりしていた。
 この人も自分に死ぬなというのだろう。
 そう思った。

「生きていれば必ず良いことがあるのだから……」

 看護師の年齢は40代なかば……

「看護師さんには、わかんないですよ。
 死のうとする人の気持ちなんて」

「そう?」

 看護師は、そう言うと自分の腕を見せてくれた。
 手首には無数のためらい傷があった。
 十三は、言葉を失った。

「詩空さんは、死ねなかった。
 それは、きっと神様が、こう言っているの。
 『今を生きなさい』って……」

 看護師は、言葉を続けた。

「死んじゃう人は、何もしなくても死ぬの。
 でも、貴方は死ねなかった。
 何故だかわかる?」

「運がわるかっただけ」

 看護師は、ニッコリと笑う。
 そして、点滴を十三にさした。

「痛ッ……」

「どうして痛いかわかる?」

「それは、看護師さんの腕が悪いから?」

 すると看護師が、静かに答える。

「違うわ。
 生きているからよ」

 十三は、なにも言えなくなった。

「まぁ、そんな冗談が言えるのなら心配ないわね」

 看護師は、そう言うと点滴を整えたあと部屋を出た。

「冗談じゃなかったんだけどな……」

 十三が、ボソリと呟く。

「ねぇ。自由。
 俺は、いつになったら君の場所にいけるの?
 俺は、早く君の場所に行きたいよ。
 って、無理か……
 自殺って罪が重いらしいしね。
 俺が行く場所は、地獄か……
 はは……」

 十三は、そう言って窓から外を見た。
 外には綺麗な空が、広がっていた。
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