まっしろな遺書
 暫くの沈黙が流れた。

 十三は、何を言ったらいいのかわからない。
 もしもこんなとき、色んな事を話せる人間だったら、幾分かマシな人生を過ごせたのではないだろうか?
 そう思った。

「ねぇ、十三君。
 十三君も早く結婚した方がいいよ」

「え?」

「彼女いるんでしょ?」

 一瞬、美穂の事が頭に浮かんだ。
 美穂は自分の彼女ではない。
 だが、ここで否定するのは、良くないと思った。
 十三は、軽く息を吸い込み。

「まぁ、ぼちぼち頑張るよ」

 と息を吐くようにいった。

「うん!頑張れ」

 萌が、力弱く笑った。

 病室のドアが、開かれる。

「萌ちゃん!
 千春ちゃんが、遊びに来たよー」

 千春が、元気な声で現れた。

「びっくりした……
 心臓が止まるかと思ったよ」

 萌が、目を丸くさせて笑う。
 こんなときなのに、十三も何故か楽しくなってしまった。

「えー!
 心臓が止まられると困るなぁー」

 千春が、笑う。

 誰の目から見ても、無理して笑っているのがわかる。
 でも、この場を和ませるのには十分だった。

「賑やかっすね。
 なんの話をしてたんっすか?」

 太郎が、賑やかな雰囲気の中に現れた。

「秘密」

 萌が、そう言うと十三たちは、笑った。
 十三はふと学生時代のあのころに帰りたいと思った。
< 62 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop