まっしろな遺書
「瓜!桃!
 お父さんの言うことしっかり聞くのよ!」

 桃は、大きく返事をして瓜は涙を拭いて返事をした。

 そして、萌はこの時初めて子供の目の前で涙を流した。

 まだ幼い瓜や桃が、どこまで理解しているかは、俺にはわからない。
 だけど、ふたりは、真剣に萌ちゃんの話を聞いていた。

 稀に子供には人の死の現場を見せるのはよくないという人がいる。
 しかし、この時だけは決して悪いものではないのではないかと十三は思った。

 元気だった母親の姿を知る子供に、その母親の最後の姿を見せるのは、きつく辛いかも知れない。
 だけど、この子たちが、やがて大人になった時、この最後の場面に立ち会わず、後悔しないと言い切れるだろうか?
 血の分けた親子なのだ。

 子は、親の温もりを……
 親は、子の温もりを……
 そして、温かい肉声を……

 幼い子供にだって、母親の最後の最後まで感じる権利は、あるはず。
 そして、子は命の大事さを学び、親の優しさや、厳しさをこうやって引き継いでいくのではないかと……

 十三は、そう感じだ。
 そう、思わずにはいられなかった。

 そうして、1日が、終わった。
 子供たちは、今別の部屋で休んでいる。

 この部屋には、俺と銘と太郎だけが残っていた。
 萌は今、静かに眠っている。
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