まっしろな遺書
 朝が来る。
 寝ても覚めても起きていても。
 なにをしていても生きている限り夜が来れば朝が来る。

 十三は、カーテンの音と眩しい光により目を覚ます。

「やっと起きましたね」


 看護師がニッコリと笑う。

「あ、はい。
 おはようございます」

「おはよう。
 今日もいい朝よ」

「そうですか……」

 病院に閉じこもりの十三にとって天気などどうでもいいモノだった。

「さ、朝ごはん持ってくるわね」

「ありがとうございます」

 看護師は、十三がうなずくのを確かめるとニッコリと笑い部屋を出た。
 するとすぐにドアが開かれる。
 現れたのは小学生低学年くらいの女の子だった。

「お兄さんどこが悪いの?」

 突然の質問に十三は戸惑う。

「君は誰?」

「私は歩。
 石田 歩だよ。
 ねぇ、どこが悪いの?」

 女の子の目は真剣だった。
 十三は答えに悩んだ。
 自殺したってことが答えにくい。
 そして、この時初めて気づいた。
 自殺って後ろめたいことなんだな……

「頭が悪いんだよ」

 十三は、思わず嘘をついてしまった。

「治るの?」

「さぁ……?」

 十三は首を傾げた。
 しかし、歩は真剣な表情で「そっか」と言った・
 そして、十三は気づいた。
 ここは病院。
 『頭が悪い』と聞けば馬鹿という意味ではなく『頭の病気』と思ってもおかしくはない。
 歩は、パジャマを着ていた。
 恐らく入院しているのだろう。
 沈黙が訪れる。
 するとその沈黙な世界に小さな声が響く。

「歩の病気もね。
 治るかわかんないんだ」

「え?」

 歩みの言葉に十三は戸惑う。

「私はね、白血病なんだって。
 お兄さんは、白血ってなにかわかる?」

「えっと、確か白血球の癌だったかな……」

「私、死ぬのかな?」

 歩は、目に涙を浮かべて十三に尋ねる。

「癌は治る病気だよ」

 十三が言える精一杯の励ましの言葉だった。
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