まっしろな遺書
 十三は、背中に当たる暖かい何かを感じて目が覚める。
 振り返るとそこに美穂がいた。
 美穂の目には涙の跡が残っていた。

「いつのまに……」

 十三は、美穂を起こさないようにベッドを降りた。

「どこに行くの?」

 美穂が、十三の腕を掴む。

「トイレだよ」

「私も行く……」

「面会時間外なのに、よく入れたね」

「きちんと許可を貰ったよ。
 これから、毎晩来るね」
 

 美穂はそう言って十三の手を握りしめた。
 十三は、違和感を覚えながらも美穂手をつないでトイレへと向かった。
 朝だから人が少ない。
 それでも十三は少しの照れがあった。
 今まで、美穂と手を繋いだことはなかったからだ……

「じゃ、行ってくるね」

 男子トイレの前まで歩くと十三はそう言って手を離した。
 十三が、そのままトイレに向かうと中年の男性に声をかけられる。

「朝から、ラブラブだね」

 十三は、無言でその弾性を睨んだ。

「はいはい。
 モテないおじさんは、すぐに立ち去りますよ」

 男性は、そう言ってその場から離れた。
 用を済ませた十三が、先ほど美穂と別れた場所に戻るとその場に美穂はいなかった。

「トイレかな……」

 十三は、そう呟き暫くぼーっと待った。
 美穂は、すぐに戻ってきた。

「待っていてくれたの?」

 美穂が不思議そうに十三を見た。

「置いていくわけないだろう?」

 十三が、そう言うと美穂が照れ笑いを浮かべる。

「私を置いて逝こうとしたくせに……」

「……ごめん」

 美穂は、ため息をついたあと十三の手をぎゅっと握りしめた。
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