まっしろな遺書
 2015年4月21日


 今日、十三は、子供たちと一緒にゆかりの部屋の前に立つ。
 部屋には鍵が、かかっている。
 なので、中には入れない。


「ゆかりさん。
 出てこようよ……」

 歩が、大きな声でそう言う。

「そうだよ!
 赤ちゃん見せてくれるって約束したじゃんか!」

 元太が、そう言う。
 ゆかりは、何も答えない。

「赤ちゃん、きっと可愛いよ!
 赤ちゃん、きっと寂しいと思うよ!
 だから、お願い、私たちに姿を見せなくていいから赤ちゃんを抱いてあげて!」

 愛が、そう言うとゆかりさんの声が、響く。

「帰って!
 あの子は……あの子は、あの子は……!」

 ゆかりは、そこまで言って言葉を止める。

「ゆかりさん、子供には罪はないよ?」

 隼人が、そう言うとゆかりが言葉を続ける。

「そう、あの子には罪はないの……
 悪いのは私……私が、悪いの!」

「ゆかりさんは、悪くないわ!
 悪いのはあの男よ!」

 美穂が、そう言うとゆかりが小さな声で弱々しく言う。

「あの人と一緒になった私が、悪いの……
 あの子も産まれてこなければ、きっと苦しい思いをしなくて済んだ……」

 十三は、ゆかりにどんな声をかけてあげればいいのかわからなかった。
 十三は何を言えばいいかわからなかった。
 それでも言葉を探し何かを言おうと、口を開けようとしたとき千代田が十三たちに近づいてくる。

「貴方たち、何やってるの?」

 千代田が、十三と美穂の方を見る。

「ゆかりさんに早く元気になってもらいたいです……」

 十三は、それしか言えなかった。

「今は、そっとしてあげて……」

 千代田は、そう言うと歩たちはしょんぼりした様子で、それぞれの部屋に戻った。
 十三も美穂と共に部屋に戻った。
 十三は、何も出来ない自分にいらだちを感じた。
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