まっしろな遺書
 2015年4月22日


 それは、深夜の出来事。
 十三は、自分の病室を出ると、ゆかりの部屋の前に座る。

「ゆかりさん、起きてますか?」

「……十三君?」

「そうです。
 十三です」

「こんな時間にどうしたの?
 良い子は、寝る時間だぞ」

「俺は、悪い子なんです」

「そうだね。
 十三君、悪い子だ」

 ゆかりは、そう言って少しだけ笑った。
 落ち着いたゆかりの声を聞いて、十三は少し安心した。
 十三は、小さく息を吸い込むとゆっくりと言葉を出した。

「少し、昔話をしましょうか?」

「昔話?
 むかーし、むかーし?」

「そうです。
 むかーし、むかーしの話です」

「わかった。
 十三君のお話聞く」

「むかーし、むかーし、1人の男の子がいました。
 その子は、何処にでもいる普通の子。
 その男の子は両親の愛をいっぱい注がれ3歳まで育ちました。
 だけど、その男の子に変化が訪れました。
 その男の子は、悪い病気が発症したのです。
 体の至る所に痣のようなシミがでたのです」

「え?それって……」

「そのシミが出た途端、両親はその子供と距離を置くようになり……
 また、両親を含め、周りの人間たちバケモノと言い放ち、男の子を避けるようになり他人からも距離を置かれるようになりました。
 やがて、子供に弟が産まれると両親の愛情は、弟に集中し……
 その子は、1人になりました。
 外でも1人、家でも1人。
 寂しくて寂しくて毎日泣いていました。
 その子は、欲しかったのです。
 両親の愛情が……
 その子は、抱きしめてほしかったのです。
 両親に……」

「十三君……?」

「まぁ、何が言いたいかと言うと1人は、寂しいってことです。
 せっかく生まれて来たのに、1度もお母さんに抱きしめてもらえない。
 そう言う寂しさ、なんとなくわかるんだ」

「でも、あの子は……」

「限られた命だからこそ、限られた時間をお母さんと過ごしたい。
 そう思うのって贅沢なのかな?」

 鍵の開く音が、廊下に響く。
 そして、ゆかりの部屋の扉が開く。
 ゆかりが、十三の方を見て言う。

「十三君。
 私、赤ちゃんに会いたい……」

「うん」

「それで、抱きしめてあげたい」

「うん」

「十三君……
 ありがとう」

「……うんん」

「はぁ、なんかお腹空いちゃった」

「じゃ、千代田さんに頼んで夜食を貰おう」

「うん!」

 十三たちは、そのまま千代田さんの所に行って夜食を貰った。
 ゆかりの姿を見て千代田は、安心したような顔を見せた。
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