まっしろな遺書
 2015年4月23日


 ゆかりは、赤ちゃんに会いに行った。
 ゆかりにとっては、2度目の対面だ。
 十三もそれに付き合った。
 美穂は、今日から仕事が始まるので、付き添いは出来なかった。

 ゆかりは、赤ちゃんの前に立つと真剣な目で言った。

「今まで、ごめんね……」

 赤ちゃんは、静かに眠っている。

「この子を連れて外を歩いても大丈夫ですか?」

 ゆかりは、看護師に尋ねた。

「今、生命維持装置を外すのは危険です……
 なので、外に出すのは……」

「そうですか……
 では、手を握り締めることは可能ですか?」

「はい、それくらいなら……」

 ゆかりと十三は、赤ちゃんのいる部屋に入る。

 赤ちゃんの目は、中央に1つ。
 鼻の形も普通の赤ちゃんとは違った。

「お母さんだぞー」

 十三が、赤ちゃんにそう言うと赤ちゃんは、小さくあくびをした。

「あ、あくびした!
 十三君!今、赤ちゃんあくびをしたよ!」

「そうだね……
 生きている証拠だ」

「うん」

「名前……
 決めてあげないとね……」

 ゆかりが、小さく呟く。

「そうだね」

「あーあー。
 美穂さんがいなかったら、私が十三君にプロポーズするのにー」

「え?」

「十三君の童貞、私も狙っちゃおうかな?」

「ほ、本気ですか?」

「十三君なら、私とこの子受け入れてくれるでしょ?」

「俺、無職ですよ?」

「私、こう見えて会社経営者の娘です」

 ゆかりが、胸を張る。
 するとゆかりの胸が揺れる。

「今、十三君、どこ見てるー?」

 ゆかりが、そう言って笑う。

「す、すみません」

 ゆかりは、小さくため息をつくと赤ちゃんの手を握り締める。

「どうして、男はみんなスケベなのかなぁー」

 そう言って赤ちゃんを見るゆかりの目は、母親の目だった。
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