まっしろな遺書
 次の日の朝。
 十三が目を覚ますとベッドに眠る美穂の姿があった。

「本当に心配してくれているんだな……」

 十三は、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 今日も手をつないで一緒にトイレに向かう。

「逃げないから、そんなに力を入れなくても……」

「飛び降り自殺しない?」

「しないって」

「それでも離さない」

 十三たちを見た看護師がクスクスと笑う。
 十三は、美穂が転ばないようにゆっくりと歩く。

「十三、歩くの遅いね」

 美穂が、照れながら言った。

「美穂に合わせているからだよ」

「そっか……」

 なんかこういうのもいいな。
 十三はそう思うと帰り道は、少し遠回りして病室に向かうことにした。
 すると待合室で、泣いている女性がいた。
 十三は、気づかないふりをして通りすぎようとした。
 しかし、美穂は違った。

「どうかしたんですか?」

 美穂は、その女性に話しかけたのだ。

「大丈夫です。
 ありがとうございます」

 女性は、涙を流しながら美穂にお礼を言った。

「聞きますよ?」

美穂は、真剣なまなざしで言葉を続けた。

「いいんです。
 初めての人に話す様なことではありません。
 気にしないで下さい」

 美穂は、一瞬だけ泣きそうな顔をした。
 そして、十三の手をぎゅっと握りしめ。
 足を進めた。

 病室に戻ると十三は、再びベッドに潜った。
 美穂も一緒にベッドに横になる。

 十三は、向い合せで横になるのは照れくさいので美穂に背中を向けた。
 すると美穂のすすり泣く声が十三の耳に入る。

「美穂?どうした?」

 十三は、美穂の方を見た。

 美穂は泣いていた。
 ただ、ずっと泣いていた。
 十三は何も出来ないままただ呆然とするしか出来なかった。
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