まっしろな遺書
 2015年4月29日


 ゆかりが、十三の部屋に訪れる。

「十三君、こんにちは」

「ゆかりさんこんにちわ」

「今日は、お話があって来たんだ」

「何かな?」

「私、明後日退院する」

「え?」

「小十郎さんも逮捕されたし、私の体も、もう大丈夫みたいだから……」

「そうですか……」

 ゆかりさんに元気が無い。

「それでね、私、実家へ帰ろうと思うの」

「そうですか……」

「私の実家、北海道なんだ」

「北海道?」

「うん」

「だから、もうここには、簡単には来れないんだ」

「そうですか……
 寂しくなるな……」

「今までありがとうございました」

 ゆかりが、軽く頭を下げる。

「こちらこそ、ありがとうございました」

 十三も軽く頭を下げる。

「ホント、ありがとうね……」

 ゆかりが、ボロボロと涙を流す。

「そんな、今生の別れって訳じゃないんだから……
 泣かないでください」

「十三君、私のせいで殴られてばっかだったよね……
 ホントにごめんね……」

「大丈夫です……
 殴られた傷は、もう治りましたから……」

 ゆかりが、俺の顔に近づく。
 そして、唇と唇が当たろうとする。

 俺の目が一瞬動揺する。
 そして、ゆかりは、キスをした。
 俺の額に。

「十三君の唇は、美穂ちゃん専用だもんね。
 私は、我慢するね」

 ゆかりは、そう言って泣きそうな笑みを浮かべた。
 十三は、なにも出来ない自分の無力さが歯がゆかった。
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