手紙-あなたへ。-
弘毅の事なんて
そのときの私の頭の中には
正直無かった。

ただ考えられる全てが要で
私の全てが要だった。


「じゃあ…明日ね。
楽しみにしてるね」


昼過ぎから会う約束をして
私から電話を切った。

それ以上声を聞いていれば
今すぐにでも行きたくなる。

今すぐにでも
要の傍に…

いつもはつまらない
ただ何となく見ている
そんな深夜番組も
とても面白く感じた。

無名の芸人が繰り出す
つまらないギャグにも
声を出して笑った。

色褪せていた世界が
輝き出した瞬間。

目の前を要の姿が
過ぎって掠めていく。

弘毅には感じた事のない
そんな感情が
ただとめどなく溢れる。

早く夜が明けてほしい…

こんな気持ちは
一体何年振りだろうか…?

私はにやけながら
枕に顔を埋めた。

何時間後かには
要の側にいる
自分の姿を想像して。
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