あやかしの瞳の中に
初めての世界

満月の夜、吉原の遊女のもとにある一人の男が訪ねてきた。

「失礼いたします」

澪が障子を引くと、そこには鋭い目つきでどこか色気のある美しい男性が座っていた。

「お前が澪か、、、噂通りの美しさだな」

その男性は澪ことを舐めるように見ると、いきなり澪の手を掴み真剣な眼差しで言った。

「お前にはこれから、妖の世で死ぬまで働いてもらう」

「貴方がおっしゃっている意味がよく分からないのですが・・・」

「鬼浄様にその身を捧げるのだ」

澪は信じられないのと同時に、多少の恐怖を感じていた。

昔から遊女達の間では、妖の噂が囁かれていたからだ。

10年に1度、吉原の遊女が1人、妖に連れ去られ帰ってくることはないという。

澪もそんな噂を聞いたことがあったが、まさか本当のことだったとは、信じられなかった・・・というより信じたくなかった。

「嫌です。例え、死ぬまでこの吉原ので遊女として働くことになるのだとしても、妖に身を捧げるよりは、何倍も増しです」

「お前が何と言おうと、鬼浄様が決めたことだ。明日の朝に目が覚めたら、お前はもうこちらの世界には居ない」

「そんな・・・」

「今日のうちに覚悟を決めておくことだな」

そう言って、男性は部屋から出て言った。

澪は、怖くて仕方がなかった。

噂では、連れ去られた遊女は、妖の世継ぎを産むはめになるというのだ。

澪は遊女ゆえに、好きでもない男性に抱かれることには慣れていたが、妖に抱かれ、ましてや妖の子供を産むことなど考えたくもなかった。

「どうして私なの・・・」

「こんなことなど、信じられない」

澪はその場で泣き続けた。
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