双綴―ふたつづり―
燃え盛る炎が、四人の育った屋敷を飲み込む。
一画が崩れたのだろう、巨躯の男が大地を踏みしめたような。
近い場所に雷が落ちたような、そんな音を立てて崩れていく。
どこか遠い瓦解の音が、セキの胸の中で重なり響く。
「もう、取り戻せないんだ……。ね……?
誰に呟いたのか、セキの涙声は、自嘲するように笑っていた。
その様が、黒耀には薄ら寒い恐怖へとジリジリ変わっていく。
俯いてしゃがみこむセキの顔は分からなくも、彼女を包む空気がおかしいのは分かる。
「セキ……?」
恐る恐る声をかける黒耀に、セキは答えない。
それはまるで、嵐の前の静けさ……いや、噴火を間近に控えた火口と例えた方が、彼女の一面を知らすには相応しい。
「セキ……」
立ち上がらせようと手を伸ばすが、その手は彼女に振り払われた。
あまりにも冷たい手。
どう触れたら良いのか分からずに、目を泳がせる。
その間に、セキは一度は崩れ落ちた体を自力で立て直すと、溢した紅蓮丸を拾いあげた。
刹那、その刀身が音を立てて紅の炎を噴き出し、まとった。
再び前を見据える顔は、『紅蓮の夜叉姫』の通り名そのままだった。