秘密の私と、秘密の彼。【更新中】
しばらく2人の間に沈黙が流れる。
その時間は気まずいような、心地いいような、なんともいえない時間で。
いつの間にか、顔の火照りはなくなっていた。
「・・・戻ろっか?」
私から沈黙を破る。
浬は私の言葉に小さく頷いて、椅子から立ち上がった。
さてと、早く戻ってご飯食べますか。
お腹も空いたことだし、玲が待ってるだろうし。
すぐそこにある資料室のドアに向かって歩き始めると同時に、後ろで小さく呟く声が聞こえた。
え?浬、何か言った?
そう思って後ろを振り返る。
そこにいた浬の顔色は普通に戻っていて、先ほどのことが嘘のようにまたいつもの笑みを浮かべていた。
「千慧」
そして、不意に私の名前を呼ぶ。
「俺もこれから、そーやって呼ぶから」
「え・・・」
「じゃ、先戻るわ」
軽く右手を上げて、資料室を出て行く浬。
その後ろ姿を、また顔を火照らせて見送った。
“千慧”と呼ばれた瞬間に、一気に速度を増した鼓動。
この感情を・・・私は知ってる。
・・・確かに、私と浬はただの秘密共有関係。
ただ、それだけの関係。
でも・・・。
前よりも近くなった距離を、簡単には手放せない。
たとえ、秘密を隠すための関係でも構わない。
・・・浬にもっともっと近づきたいんだ。
だから私はこの関係をしばらく楽しむことに決めて、資料室を後にした。