【超短編 07】虫歯菌大決戦
【短編】虫歯菌大決戦
「ああ、これはもう虫歯菌を退治するしかないな」
歯医者の先生が長い柄のついた鏡で僕の奥歯を見ながらため息混じりに呟いた。随分とかわいいものの言い方をする人だと思ったけど、ネットで調べた限りこの街で一番腕のいい先生らしい。
僕は歯医者が苦手だ。あまり得意だという人も聞かないが、苦手な人の中でも苦手だと自負している。
大学卒業後そのまま就職し、一年も経たないうちに仕事の都合で移り住んでからずっと10年間放っておいた歯の治療を今さらする気になったのは、恋人に指摘されたことが大半の理由だった。付き合い始めてからもう3年が過ぎそろそろ結婚でもしようかと考えていた矢先に彼女のほうから
「ちょっと言い辛いんだけど」
などと改まった言い回しをされたので、いよいよそういう話が持ち上がるのかと思ったら最近口臭がひどくなってきたから歯医者に行け、と言われた。その後、自分じゃなかなか気づかないものだという優しい言葉も付け加えられたが、かなりショックだった。こうやって僕も知らないうちにオジサンになっていくのだと実感し、更に落ち込みの度合いが深まった。だけど、僕もそう易々とそれに甘んじるわけにはいかない。そういう決意で歯医者に通うことになった。
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