オウリアンダ

301号室

「お前の家、エレベーターないのかよ。」
 周りには現代的な良いマンションが多かったのに、アキラのマンションはまるで時代に取り残されたようだった。
 アキラの家は6階建てなのにエレベーターがなかった。
 よく知らないが6階以上の建物にはエレベーター設置の義務があったような気がする。
 幸いアキラの部屋は3階の301号室らしいが、俺はアキラにブツブツいいながら階段を登っていた。
「この家めちゃくちゃ古いんだよ。昭和の初期くらいに建ったらしい。多分その時はまだちゃんとした建築法がなかったんじゃないか?あったとしても今ほど厳重に守らなかったとか。」
 なるほど。確かに古い。でも、ボロいのではない。アンティークという感じで、古くておしゃれだ。少なくとも俺にはそう見えた。
 この地域には20年近く前、大きな地震があった。多くの建物は崩壊したが、このマンションは大丈夫だったようだ。
 壁が異常に分厚い。多分これも、今ほど明確な耐震基準がなかったので、無駄に丈夫に造られたのだろう。
 やっとのことで、301号室の前についた俺はクタクタだった。このマンションにバリアフリーという概念はない。
 扉も無駄に丈夫そうだ。
 俺はアキラの取り出した鍵を見て更に驚いた。
 映画で見たような、見るからにアンティークな鍵!俺でもピッキング出来そうだ。
「そんな鍵、未だに使われている所あるのかよ。なんか針金とかで簡単に開いてしまいそうだな。」
 そのセリフを聞いたアキラがニヤニヤして言った。
「そう思うだろ?俺もそう思って、この前針金でやってみたんだよ。大体一分ぐらいで開いたね。」
「開くのかよ!!」
 このマンションは防犯対策という概念もなさそうだ。
 俺のツッコミに笑いながら、アキラはドアを開けた。
 ドアの中を見た俺はまた驚かされた。一体何度俺を驚かすのか。
 この辺は貿易港で外国の異文化も多く取り入れられている。その名残なのだろう。玄関の靴をぬぐ場所、いわゆるタタキがなかった。きっとこの家は靴のまま上がるのだ。
 天井は身長178cmの俺の二人分くらいある。
「土足のまま上がってくれ。天井高いだろ?冷房はまだいいが、暖房が全然効かないんだ。」
 やはり靴のままあがるのか。建物自体は本当におしゃれだ。
 『建物自体は』と言ったのには理由がある。アキラの家具のセンスは恐ろしく悪かった。
 どこかのホームセンターで買ったかのようなチェスト、安物臭いパイプベッド、そしてレゲェが好きなアキラの部屋は、至る所がラスタカラーにあふれていた。
 俺と違ってアキラは金がないわけではない。もう少し家具にこだわればいいのに…と俺は思った。
 部屋を見回していた俺は、唯一おしゃれな家具を見付けた。
 イームズのロッキングチェアだ。かなり高いハズなのにそれは2つあった。
「おしゃれな部屋だな。それにあの椅子。イームズだろ?スゲーな。」
 少しお世辞も混ぜて、俺はアキラの部屋を褒めた。
「だろ?椅子に座って音楽聴くから、椅子だけにはこだわってるんだよ。まあそっち座れよ。早速始めようぜ。」
 俺は椅子に深く腰掛けた。 やはり有名で高い椅子は座り心地が格別だ。
 アキラが言うには大麻はキメる前のセッティングが一番大事なようで、俺が座ってる間にもせっせと準備をしている。
 音楽プレイヤーを黙々といじり、アキラはレゲェをかけた。スピーカーもかなり高そうだ。
 俺はあまりレゲェは聴かないので、誰の曲かは全くわからない。
 テーブルの上には2本のエナジードリンクとポテトチップス、カップラーメンが置かれた。
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