桜花
そろそろと窓に近づき、外を見る。
すると山の方から煙が登っているのが見えた。
それを見た鏡花は硬直した。
その方角には何があった。
あの場所には何度も行ったではないか。
そう、あの場所には。
あの場所には――。
鏡花は階段を掛け降りた。
その音に驚いた祖母が居間から顔を覗かせる。
「鏡花ちゃんどうし――」
しかし、祖母の声は鏡花の耳には入らない。
鏡花は玄関で靴を急いで履いて外に出た。
外はザーザーと雨が降りしきり、地面に穴を穿っている。
しかし鏡花はそんな雨を気にしている暇などなかった。
雨の中に身を投じ、走り出す。
後ろから祖母の声が聴こえたが今はそれどころではなかった。