桜花
◇◇◇
「桜花! いやっ、桜花! ああぁぁあぁぁ!」
鏡花は半狂乱になっていた。
今まで会うことのできていた者が唐突に離れていく喪失感が鏡花を不安に駆り立てていた。
霞は鏡花の痛々しい姿を半ば呆然と見ていたが、はっと我に返り鏡花を止めに入る。
「鏡花様、落ち着いてください。ひとまずここは濡れますから濡れない所に移動しましょう」
肩を揺すって鏡花に声を掛ける。
「おうかぁ! 桜花ったらあぁ!」
霞が声を掛けるがまだ鏡花は半狂乱のままだ。
霞はすっと息を吸い込むと。
「鏡花様! また雷が落ちるかもしれません!
私が案内しますから、ひとまず濡れない所についてきてください!」
雨が降るなかでも凛とよく通る声が響いた。
「っ……」
霞の声に少しは正気を取り戻したようで、目は不安に揺れていたが、霞の指示に従った。