夢おとぎ 恋草子
「なるほど。私よりももっと若い者がいいということか・・」

「で ですから!そ、そういう事を申し上げているのではっ・・・」


殿の指先は動きを止めることなく 
今度は指の背で私の頬をするすると撫で始めました。
気が遠くなりそうでしたが
わずかに残っていた理性にぎゅっとしがみついて
何とかぎりぎりの崖っぷちで踏み止まりましたのに
ふわりと殿のお袖に覆われたかと思いきや


「寂しい限りだよ・・・ 梢」


などと、この上なく甘く耳元に囁かれて・・・
そこから蕩けてしまいそうでございました。


「・・・・・・・・」


何も考えられなくなった私は身を固くして
目を伏せて俯くことしかできませんでした。



その時でございました。


「もうそのくらいになさいませ、殿」


常盤さまのお声が頭の上に聞こえました。


「残念。いいところだったのに邪魔が入った」


あはは、と笑った殿が悪びれる様子もなく
ひらりと袖を翻すと ちゅ、と私の額に口づけをなさいました。


「ひゃっ!」

「恥じらう様は悪くなかったよ。続きはいずれまた…」


ね?と軽く片目をつぶった殿は また脇息にゆったりと体を預けて
常盤さまの差し出した盃を受け取られました。

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