夢おとぎ 恋草子
初恋
当時から東宮は 幼いながらも強い正義感と
豪胆なほどの快活さをお持ちで
一点の曇りも迷いも無い崇高な志と明朗さで人望も厚く
また情にも厚い御方でね。私は幼いながらも
この御方こそ帝王になるべく尊き御方と眩しくお見上げしつつ
畏れ多きことながら親しみも感じていたのだよ。
この御方のために尽くそうと私は幼いながら心に決めてもいた。
そんな私の思いを知ってか知らずか
東宮は何処へ参られるにも私を伴われてね。
お陰で後宮にも顔が知れて
比較的自由に出入りできるようになったのだが
実は子どもの頃の私は数多の女人たちが居る後宮が苦手でね。
少々信じ難い話だろうが・・・本当だよ?
後宮に入ると あちらこちらの女房方に嫌というほど構われてね。
それが少々鬱陶しくて
出来る限り近づきたくないと思っていたのだよ。
まあ 幼い頃にはありがちなことだ。
そんな或る日のこと。
東宮が御母上様である女御様の局でお過ごしになると仰せになってね。
それならば御前を辞して退室をと思いきや、共に参れと仰る。
主命に背くわけにはいかないから
顔で笑って心で嘆きながら 仕方なくお供したのだよ。