夢おとぎ 恋草子
「あの・・・左の大臣の一の姫さまは 恋をしたことはあるのでしょうか?」
一瞬の瞠目の後 常盤さまはお優しい微笑みを湛えて
お答えになりました。
「さて・・・ どうでしょうね」
深窓の姫君の中でも 左大臣家の姫君ともなれば別格。
御父上やお兄上以外の殿方を目にする機会もなかったでしょうし
恋を知る由などなかったと思いますよ、と
常盤さまは切なげに眼を伏せられました。
「初恋も知らないままお輿入れなさるなんて
何だかお気の毒です・・・」
「あら!梢さまったら、何を仰いますの?!」
一の姫さまの心情を慮って
心持ち落ちてしまった私の肩を叩くような勢いで
雲雀さまが声をあげました。
「姫さまは後に女御様になられるのよ?
女人として最高のご結婚ですわ。
それに帝が初恋のお相手になられるわけでしょう?
これ以上の初恋が他にありまして?」
「それは、そうですけれど・・・」
雲雀さまの勢いに気圧されて 私は怯んでしまいました。
その時でございました。
「誰が初恋をしたって?」
通りがかりの殿がふらりと部屋に入って来られました。
衣をゆったりと纏われた寛いだお姿は
しどけなくも、どこか粋を感じさせるのは さすがでございます。
毎日見ているお姿なのに見惚れてしまって・・・
胸が小さく騒ぐのは私だけの秘密。
もちろん雲雀さまにも内緒です。
彼女は素直でとても可愛らしいお方ですが、大変なお喋り好き。
内緒の話はできません。お邸中に知れ渡ってしまいます。
と・・・ そんな私事はさて置き、話を戻しましょう。
一瞬の瞠目の後 常盤さまはお優しい微笑みを湛えて
お答えになりました。
「さて・・・ どうでしょうね」
深窓の姫君の中でも 左大臣家の姫君ともなれば別格。
御父上やお兄上以外の殿方を目にする機会もなかったでしょうし
恋を知る由などなかったと思いますよ、と
常盤さまは切なげに眼を伏せられました。
「初恋も知らないままお輿入れなさるなんて
何だかお気の毒です・・・」
「あら!梢さまったら、何を仰いますの?!」
一の姫さまの心情を慮って
心持ち落ちてしまった私の肩を叩くような勢いで
雲雀さまが声をあげました。
「姫さまは後に女御様になられるのよ?
女人として最高のご結婚ですわ。
それに帝が初恋のお相手になられるわけでしょう?
これ以上の初恋が他にありまして?」
「それは、そうですけれど・・・」
雲雀さまの勢いに気圧されて 私は怯んでしまいました。
その時でございました。
「誰が初恋をしたって?」
通りがかりの殿がふらりと部屋に入って来られました。
衣をゆったりと纏われた寛いだお姿は
しどけなくも、どこか粋を感じさせるのは さすがでございます。
毎日見ているお姿なのに見惚れてしまって・・・
胸が小さく騒ぐのは私だけの秘密。
もちろん雲雀さまにも内緒です。
彼女は素直でとても可愛らしいお方ですが、大変なお喋り好き。
内緒の話はできません。お邸中に知れ渡ってしまいます。
と・・・ そんな私事はさて置き、話を戻しましょう。