君と春を

あなたで満たして。




「やめて!優也!」

バスルームに逃げ込む美月は…震えていた。

…確かに美月は『ゆうや』と呼んだ。

どういうことだ?そいつが好きだから俺を拒んだ…?

……いや、忘れられない男がいたなら初めからそう言ったはずだ。

何にせよ美月は恐怖を感じていた。

「…ちゃんと、話さないと。」

バスルームの扉を挟み、できるだけ落ち着いて、静かに話しかける。

「美月?大丈夫だから、ちゃんと、お前の口から話を聞きかせて?

……美月?聞いてるか?」

「…………………」

返事はない。

「美月?」

ーカタンー

「はぁ…っ、はぁっ。」

耳を澄ませると聞こえてきたのは浅い呼吸。

「…おい!美月、開けて?具合悪いのか?……返事しろよ!みつ…」

かちゃりと、薄く扉が開く。

中に入って見たのは…

力なくへたり込み、浅い呼吸で震える美月だった。

「美月!?」

抱き上げ、リビングのソファに座らせる。水をと思い、キッチンに行こうとすると腕を掴まれた。

「行かない…で。側に…いて。

好きなの。慎汰さんだけ…好きなの。」

絞り出すような声。懇願する顔。

縋るように離れようとしない姿は、いつもより小さく、幼くさえ見えた。



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