君と春を
美月から聞かされたのはあまりにショックな出来事だった。
恋人がストーカーになったこと。
周囲の心配をなくしたい一心で恐怖と絶望の中、身体を許したこと。
その時の記憶が…蘇ってしまったこと。
それで全てが終わるならと耐えたのに、
……それなのに家族を殺されたこと。
マスコミや周囲に更に追い詰められ、ショックで心が壊れて眠り続けたこと。
それ以来、もう誰も愛さないと心を閉ざしたこと。
…そういえば大学に入ったばかりの頃高校生がストーカーの末一家を殺したと大騒ぎになった事件があった。
あれが、美月だったとは。
涙を流し、震えながら全てを吐き出すように語った美月を膝に乗せて抱きしめる。
『心が粉々になるどころか、それが風に吹かれて消えてなくなるくらい』
百合先生はそう言っていた。
こんなに辛い思いをして長い間苦しんでいたなんて。
この話を俺にするために、どれだけの勇気と決意が必要だっただろう。
それを思うと苦しくなる。
涙の止まらない彼女の頬を何度も優しく拭い、胸に抱いて囁くように静かに伝える。
「美月、もう大丈夫だから。
ひとりで苦しまなくていいから。
どうしても苦しい時は…俺に全てを吐き出せばいいから。ちゃんと受け止めるよ。
俺、それくらいの包容力はあるつもりだよ?
だから…何も心配いらない。
………愛してるよ。愛してる。
俺の美月。」
「…………全てを知っても、それでも私を…愛せますか?」
「当たり前だろ?離さない。美月の居場所は俺の隣だけ。」
そう言っておでこにキスをする。この変わらない気持ちが彼女の心に届くように願いを込めて。
こくりと頷く美月の瞳は、最初出会った頃感じた冷たさが消えて温かく輝くように見えた。