君と春を
食事を済ませて一緒に並んで食器を洗う。
こんなこと、今までしたこともなかった。身内が見たらたいそう驚くだろう。
でも美月となら全然苦じゃないし、むしろ、したい。
いつものように風呂の後ソファで寛ぎ、本を読む彼女の髪を弄ぶ。
「くすぐったいです。慎汰さん。」
クスクスと笑い、本を閉じる美月がすっごく可愛い。
俺といる美月はよく笑うようになった。
閉じた本をテーブルに置きキスをせがむように腕を伸ばしてくる姿は最初の頃と比べて別人だ。
……俺がこんな風にしたんだよな。
身体を引き寄せ、唇に人差し指を押し付ける。
「その前に。
来週の土曜日、パーティあるから。
美月も同席するよ?」
「……………?」
「和光金属って知ってるだろ?」
和光金属は国内最大手にして老舗のジュエリーメーカーだ。
年齢や購買層に合わせたブランド展開で老若男女問わず人気があり、ジュエリー業界のみならずアパレル業界にも影響力がある。
「…知ってます。
あれ?でもそれなら社長が出席するからあなたに通訳依頼が行くかもって里美先輩が言ってましたよ。」
「ん。でも俺が行くことになった。
だから美月もね。」
「………?」
不思議そうに眉を顰める姿も可愛い。
「あの?」
彼女を更に胸に引き寄せ、囁くように伝える。
「美月を見せびらかしたい。」
「………はい?
意味がよくわかりませんが?」
「あそこの次期社長、俺の大学の先輩なんだ。
俺に女ができたって知って紹介しろって煩いから。」
美月は黙っている。
本来人前に出るタイプじゃないからな。困惑してるんだろう。
「…でも、着て行くような…」
「それは問題ない。
……うちを何の会社だと思ってるの?
頭のてっぺんから足の先まで完璧な俺好みに……」
「慎汰さん?」
「…ちゃんと用意してあるよ。」
そう。すでに一式選んである。普段そんなに着飾ったりしない美月がどんな風に変身するか、すでに今から楽しみにしている。
……本来の目的はそこで、通訳がてら美月を同行させると言った社長からこの話を半ば奪い取ったことは内緒だ。
社長を勤める兄が、『本気になったことがないお前がそこまで入れあげる女なら譲ってやる』と呆れ顔で招待状を俺に寄越したのも内緒。
「………確信犯ですね?」
どこまで察したのか美月はそう言った。
「そ。俺はずるいからね。
でも好きだろ?」
そう言いながら部屋着に手を忍ばせ、甘く甘くキスをする。
「ん……っ、すき………です。」
俺の背中に腕を回して、そう答える美月は俺に触られると物凄く妖艶な雰囲気を纏うようになった。
…さすが俺。
そしてまた俺に翻弄されて可愛い声を出す美月を、溺れるように深く深く愛した。