君と春を
慎汰さんの選んだドレスはHARUSEでもトップブランドのもので、黒の膝丈のタイトでシンプルなデザインだった。
ワンショルダーで七分袖、裾もショルダーの形に合わせて流れるようにカットしてある。
そして……膝上15センチのスリット。
バストからウエスト、ヒップまでラインがバッチリ出るセクシーさなのに、繊細で上質な生地と落ち着いた色で上品さを演出するように計算されている。
『頭のてっぺんから足の先まで完璧な俺好みに……』
着てみてその意味がよく分かった。
このウエストラインは…。
合わせているジュエリーは和光のハイブランド物。
ヘッドドレス、イヤリング、ネックレス、アンクレットがセットになっていてシンプルなドレスと良く合っている。
ヘアメイクもしてもらい、慎汰さんが待つと言う最上階のスィートに向かう。
……なんでスィート?
ーコンコンー
かちゃり。
「専務、お待たせいたしました。
……きゃっ!」
ドアを開け一瞬目を見開いた彼にぐいっと手を引かれ、部屋に吸い込まれる。
「……専務、びっくりするじゃぁ…」
途端に抱きしめられる。
上品なスーツ、いつもとちょっと違う整髪料の香り。
仕事だと言うことを忘れてしまいそうになる。
「…どうしたんですか?」
「……………可愛すぎる。」
「…………はい?」
「可愛すぎるって言ったの。
はぁ、…これ結構スタイル良くないと着こなすの大変なんだけど…美月なら大丈夫だって思ったんだ。
……最高だよ。
今すぐ押し倒したい俺の気持ちわかる?」
言いながら既にその手はくびれを撫で上げている。
……出た。
やっぱりこのデザインはくびれフェチの彼にとって最上級品だった。
「グロス取れちゃうからキスもできないしどうしろって言うの。
………パーティ辞める?」
刹那げな声で訴えるように話す彼がなんだか子供のようにも思える。
「専務、いけません。子供みたいですよ。
でも気に入ってもらえてよかったです。」
その時ふと右手に違和感を感じた。
「………?」
その違和感の先を見つめると、
薬指に瑠璃色に光る石のはまった指輪があった。
「ハッピバースデー、美月。
俺からのプレゼントだよ。」
…………誕生日?
「……あっ!そうか、今日は私の…」
「………まさか忘れてた?」
「あ、…はいー。もう何年も祝ってもらうこともなかったんで。
単なる通過点というか…特に気にしてませんでした。
すっごく嬉しいです。
ありがとうございます。」
『美月らしい』そう言ってクスクス笑う彼。
「これはラピスラズリだよ。意味知ってる?」
「えっと…確か、愛の石…だったような気が。」
「そう。愛の石。永遠の誓いっていう意味もある。
まだ左手の薬指じゃないけど、大事にしてくれる?
次に指輪をプレゼントする時はそっちにはめてもらうからね。」
そう言って恭しく手の甲にキスをしてくれた。
「………はい。
慎汰さん大好きです。」
私はそう言って、キスができない代わりにぎゅっと彼に抱きついた。