君と春を
美月の誕生日。
『好きな人に祝ってもらえる歓びを教えてあげて』
それは百合先生の言葉だ。
最高の形で祝ってやる予定だった。
俺が選んだドレスとジュエリーを身につける美月はこの上なく綺麗で、本当に誰にも見せたくないと思った。
………見せなきゃよかった。
あの女…。
美月があれほど動揺するということは過去に何かあった相手と見て間違いないだろう。
夕べ俺にさんざん啼かされ、意識を失うように眠りについた美月。
心の中にあるであろうあの時の女の姿を消し去りたくて、俺しか見えなくなるように激しく抱いてしまった。
「ん……」
隣で眠る彼女はまるで怖い夢を見ている子供のように俺にピッタリとくっつき、難しい顔をして眠っている。
………夢見が悪いのか?
腕枕のまま抱きしめ、頬に口付ける。
「ん………慎汰さ…ん」
「起きた?」
「…………………」
ふわりと微笑み、また夢の中へ。
先程とは違う穏やかな寝息。
……少しは、不安を取ってあげられたかな。
もう美月が苦しむことがありませんように。
そう願いを込めながら額にキスを落とし、彼女を抱きしめたまま俺も眠りについた。