君と春を
「茉莉ー。こっち。」
料理教室のバイトもなかった休日、茉莉と久々に会う。
大学に入ってから彼女は更に生き生きして、流行りの服や髪型がよく似合っていた。
カフェで近況を報告し合ったり他愛もない話をする中で、同じ大学の子に会ったよと報告した。
「………渡会くん?」
「そう。茉莉のこと知ってるって。」
「…そう。それだけ?何か言ってた?」
「え?何もないけど……」
曇る茉莉の顔。大好きなガトーショコラを食べる手が止まっている。
「……茉莉?」
ハッとした茉莉はまたすぐいつもの明るい茉莉に戻り、それ以上は何も聞けなかった。
バイトで週に何度も顔をあわせる渡会くんは男とは距離をとっている私にも周囲と同じように接してくるタイプで、『私は近寄られるの好きじゃない』そう言ってもまったくお構いなしだった。
そんな接触が一ヶ月くらい経った頃、全てが変わった。
全てを知った。
全てを……諦めた。