君と春を
「もう春ですねー」
休日、陽気に誘われてふたりで川べりを散歩していて芽吹いた桜を見つけてそう呟いた。
「ん?そっか。
出会って一年経つもんな。」
この一年で私は変わった。あんなに怖かったはずの春が、今は平気だ。
愛しい人が側にいてくれるということは、こんなにも心強いものなのか。
「慎汰さん。」
「ん?」
名前を呼ばれた彼は足を止めて私の方を向く。端正な顔立ちで柔らかく微笑む表情は、私が大好きな彼の一面。
「私、去年までの今頃は春が来るのが怖くて仕方なかったんです。桜の蕾が日に日に膨らんでいくのを見ていると、苦しくて悲しくて…
でも今年は平気です。
慎汰さんの隣にいるだけで乗り越えられます。」
そう言った私の頬をつないでいない方の手で撫で、愛おしそうに見つめてくれる。
「そっか。俺はちゃんと、美月の隣にいる役目を果たせてるんだな。
……よかった。」
一瞬驚いたあとホッとしたようにそう言うと、力強く私を腕の中に引き寄せた。
「…ちょっと心配だったんだ。
美月なんでもこなしちゃうだろ?
俺は楽しい時嬉しい時だけ美月と一緒に過ごすつもりないから。
美月が悲しかったり辛かったりするのも、ちゃんと受け止めたいから。」
慎汰さんが何を言いたいのかよくわかる。
あの時のことを気にしているのだろう。
「………慎汰さん。本当はあの時、茉莉ののこと色々聞きたかったんですよね。」
「………………」
「正直ちょっと過去に引きずられそうでした。でも、慎汰さんが側にいてくれたから。
だから踏ん張れたんです。
慎汰さんと一緒にいるためならって…
過去を自分で振り払えたら…それができたら、並んで歩く自分に自信が持てる気がして。
………見守ってくれて、ありがとう。」
少しずつでもいいから、あなたに相応しい女になりたい。そんなことを思いながら、彼の腕の中で私も彼をぎゅっと抱きしめた。