君と春を
恋心と不和
付き合い始めると優也はそれまでより更に優くて、私の心はとても穏やかだった。
放課後は手をつないで帰り、休日には一緒に何処かへ出かけたり、図書館に行って勉強したりするのが定番になっていた。
「ここなんだけど…」
「あぁ、これはこの文法で…」
学年トップらしく教え方は丁寧でわかりやすい。私にとってそれはとてもプラスで、進学先を同じ高校にしたいと思うようになってから大きな助けと励みだった。
「飲み物買ってくるね。」
ひと段落したところでそう言って席を立ち、自販機コーナーに向かった。
「優也は何飲むかな…?」
そう独り言を言って小銭を入れた時、
「俺はコーヒーだよ。」
真後ろから聞こえる優しく響く声とともにしなやかな腕が伸び、ボタンが押された。
「……っ!」
思わぬ彼の出現にドキリとして固まっているとクスクスと笑いながらガコンと落ちたコーヒーを取り出した彼。
その顔を上げて私を向くのと同時にふわりと……唇に温もりを感じた。
「……………!?」
「いただき。ありがと。」
ちょっと意地悪っぽい、してやったり顔。
「………な…っ!優っ…んっ!」
再び重ねられる唇。
はちきれそうな心臓。
そしてゆっくりと離れていく。
「………ここ図書館。騒ぐなって。」
ちょっとだけ困ったような笑顔。
最高に、ときめいてしまった。
「……っ、う…ん。」
この時の私はきっとゆでだこのように真っ赤だっただろう。
好きな人に捧げる、初めてのキスだった。