君と春を
冬が囚われる
冬が落ちる
慎汰さんにたっぷり愛された翌日の午後、私たちはふたりで本屋さんへ向かっていた。
両親の思い出のあの本。日本語訳があるなら読みたいと彼が言ってくれたからだ。
着いたのは私が学生時代よく来た書店。外語大のそばにあることもあり、各国の本が充実している私のお気に入りだ。
目当ての本はすんなり見つかった。
会計を済ませて店を出ると外は日差しが温かく、心地よい。
「少し歩く?」
「……そうですね。」
かつて毎日見ていた街並みを慎汰さんと歩くのはこの上なく新鮮で、ちょっとくすぐったい。
「なぁ美月ー。」
「はい?」
「昨日なんかあったろ。」
「……っ!」
バレていたんだ。
「どうして…」
繋いだ手を更に強く握られる。
「当たり前だろ。俺が美月をどれだけ見てると思ってるの?」
その言葉が胸に沁みる。
ちょっと強引に抱いたのは、きっと私の不安を取り除きたかったんだろう。
「…そうでしたね。
実は、茉莉……パーティで会った子に会って…」
茉莉とはどういう関係で過去になにがあったのか、昨日何があったのか、私は全てを彼に話した。
「茉莉にはもう心をかき回されません。慎汰さんがいるので大丈夫です。
ただ…彼女が、苦しくて悲しくて仕方がなかった時そばにいて力になってくれたことは確かな事実なんです。
だから…幸せになって欲しい。」
それは本心だ。もう昔のように笑って語り合うのは無理だけれど、お互いがそれぞれ幸せでいられたらいい。
慎汰さんは私の肩を引き寄せておでこにキスを落としてくれた。
「きっと大丈夫。
いつか全部、うまくいくよ。」
彼に言われると本当にそうなる気がする。その期待を込めて、コクリと頷いた。