君と春を
俺のマンションに着くと美月はコーヒーを用意しようとキッチンへ向かった。
「今日は俺が淹れるよ。疲れたろ。」
少しでも労ってやりたくて、そう言っておでこにキスを落としてリビングへと促した。
「あ、手紙。見なきゃ。」
彼女がお寺で受け取ったその封筒を開けるのを見ながらコーヒーを入れるためキッチンへ入る。
「誰だろう。みらいゆうびんなんて聞いたことない…。」
一見して少し厚みのある封筒は明らかに手紙だけではない感じがする。
ダイニングテーブルの側に立ったまま訝しげに封を開ける彼女を見ていると、取り出した手紙を読み始めてすぐにみるみると顔色が変わるのがわかった。
「…美月?」
……返事がない。
「美月…おい美月っ!」
青白く変わっていく顔色。震え出す手。急いでキッチンを出て彼女の元へいくとパラパラと『何か』が落ちた。
「なんだ?写真?
…………っ!見るな!」
美月を胸に押し付けるように抱く。
絶対に、見せるわけにはいかない。
だってそれは…!
「……慎汰さん?離して…?
ねぇっ!慎汰さん!!」
普段ではありえない渾身の力で俺の腕から逃れた美月は一瞬その写真たちを見てへたり込み、呟いた…。
「…斗真……お父さん……お母さん…」
そう。
そこに写っていたのは俺も何度も美月の部屋で見た遺影と同じ人たちだった。
それだけじゃない。
苦痛に歪む母。
苦しそうに睨みつける父。
………泣き叫ぶ弟。
「美月、ダメだ貸して!」
その手から離そうとしても決して離さない。
それどころか抱え込んで俯く。
「美月………!」
抱き寄せ、顔をあげさせても焦点の合わない瞳。
「美月!美月、俺を見て!美月!」
何度呼んでも返事がない。
「……………やっぱり………」
「え?」
その瞳には俺ではない真っ黒な『何か』が映っているように見えた。
「私は…幸せを……望んじゃいけなかったんだ。……………優也……」
「!」
瞳が閉じる。
身体から力が抜けていく。
涙さえ流さず……
美月は闇に堕ちて行った。