君と春を
「優也の……お姉さん?」
「……そう。私は先妻の子。優也は今の母の子。」
「…………………」
「私も恨むでしょ?………黙っててごめんなさいね。
結婚したから苗字も違うし、最近この病院に来たからここの関係者は知らないの。だから……担当になっていたの。女医は私だけだしね。」
「………………」
「嫌だったら遠慮なく言ってもらっていいわ。あなたには十分過ぎるほど私を拒む権利がある。」
「………………いえ、いいです。」
「………は?」
「あなたでいいです。あなたと話したい。」
それから美月は素直にカウンセリングを受けるようになった。
罵声を浴びることも覚悟していたと言うのに。
退院する日の朝。
私は美月に聞いた。
「どうして私を受け入れたの?」
理由が知りたかった。
「優也と百合先生は別でしょ?二人で一人みたいに括るつもりはないです。
それに……本当はちょっと、復讐のつもりだった。」
「復讐?」
「そう。何度も何度も私の話を聞いていて、百合先生だって苦しかったでしょ?
自分の家族が何をしたか、どんなふうに私や家族を地獄に叩き落としたか、それを知って苦しめばいいと思ったんです。」
「…!」
「でも……それでも逃げないで向き合ってくれた。……百合先生だって、ホントは癒されたいはずなのに。」
美月の顔が歪む。カウンセリングでさえ一度も見せなかった涙が、頬を伝っていった。
「…………本気で向き合ってくれてありがとう。
百合先生だけは、何があっても信じます。」
医者として報われたのか、加害者の家族として救われたのか。どちらなのかわからないけれど、私の心はこの時に間違いなく軽くなった。
それと同時にこの子を一生……せめて、この子が幸せを掴むまでは、見守り続けることを誓った。