君と春を



美月が倒れて5日。春瀬くんは毎日甲斐甲斐しく通い、声をかけ、頬を撫で、愛おしそうに寄り添っている。


そんな彼をドアの隙間から眺めていると彼がそっと、美月の手の甲にキスを落とす。

恭しく扱うところを見ると、微笑ましくさえ思えてくる。

「…なぁんで手なの?

眠り姫は唇じゃないと起きないわよ。」

「……見てたんですか。悪趣味ですね。」

ほんのり頬を染める彼。

……まるで乙女じゃない。

「春瀬くん、会社の方はどう?」

「あ、それなら今のところ問題ないです。元々僕付きですからね。

ただ…有休があるうちならいいですが、それ以上は…。

他の秘書連中の負担も増えてますし、退職や休職も視野に入れないといけませんね。」

美月ももう学生じゃないし、社会的には当然か。

「……ねぇ、あなたしかいの。
この子には。

お願い。この子を救って。

この子が持ってしまった悲しみや苦しみから解放してあげて。

私は………優也の姉なの。この子を地獄に引き摺り込んだ男の身内なの。」

「……!?」

春瀬君が息を飲むのが伝わる。

「…この子の父親がうちに一度来たわ。優也をなんとかしろって…。

でも父は取り合わなかった。結婚したばかりの私の家庭に支障が出るのを嫌って。

もしあの時ちゃんと家族で優也を止めていたなら……美月はもっと幸せな人生だったはず。

だからどうしても美月には……幸せになって欲しいの。」

「っ!………美月は…」

「知ってる。知っていて、私を慕ってくれている。だから……」

「知っていてあなたを?

………そう…ですか。

……大丈夫です。

……僕が幸せにします。

必ず僕が。」



< 154 / 222 >

この作品をシェア

pagetop