君と春を
12月13日は私の誕生日だ。
優也との事を知る茉莉は、ふたりでお祝いしようと放課後連れ出してくれた。
学校行事のおかげで午前中だけで授業が終わったことを幸いに、服を見に行ったりケーキを食べてお喋りをしたり、茉莉のおかげで楽しく過ごせた。
茉莉がいなかったらきっと私は、優也のことを考えてふさぎこんでしまっていただろう。
塾があると言う茉莉と夕方に別れ、自宅への道を歩く。
夕食は母が私の為に料理を作って待っていてくれる。
『家族揃ってお祝いしよう』
今朝そう言って送り出してくれたのだ。
親友に祝ってもらえた満足感と待っていてくれる家族を思いながら見慣れた道を曲がると、
…………優也がいた。
心臓がドクリと跳ねて足が動かない。
優也は壁にもたれるように立ち、私を見つけて歩み寄ってくる。
スラリとした容姿と柔らかく微笑む表情は大好きになった…けど、今はその奥に潜む狂気が怖くて…もう心動かない。
「美月。おかえり。」
まるで空いていた距離と時間が存在しないかのように笑顔で迎えられたけれど私には怖いだけだった。
「誕生日だろ。この後の時間は俺が貰うよ。」
強引に手を引き、何処かへ行こうとする。
「やっ…!優也離して!私帰るの。家族が待ってる。
それに優也とはもう戻らない!」
「さ、行くよ。俺らが行く高校あるだろ?その近くにケーキ屋があるんだ。
美月の好きそうなの沢山あったよ。」
私の意見なんか求めていないとばかりに強い力で引きずるように歩く。
ー怖い!
渾身の力を込めて握られた手を振り払う。
「優也!
私はもう優也の人形じゃないって言ったでしょ!
私の気持ちはもう離れてる!
だからこれ以上構わないで!」
ありったけの力を込めて叫ぶように訴えた。
なのに…優也の表情は変わらない。
それどころか…笑みはそのままで更に甘い声で囁くように言った。
「美月、美月には俺だけ。
言ったろ?
泣くのも笑うのも俺のことでだけって。…そんな怒った顔も好きだよ。
俺だけの怒った顔だろ?」
「…っ!」
優也の手は、拳を握って震えていた。
でもすぐにそれは解かれて…、
「美月がどう思ってようと、俺が美月を好きなった時点でもう美月は俺だけのものだよ。
この先もずっとそれは変わらない。
逃がさないよ。」
柔らかく、でも確実に自信に満ちた声を出しながら私の頬に触れてきた。
…………この人は、どこまで本気?
「美月?どうした?」
聞き慣れた声に振り向くとちょうど帰宅してきた父が、訝るように私たちの様子を伺う。
「…今日は帰るよ。
じゃあまた学校でね、美月。」
優しい笑みを浮かべたまま、優也は帰って行った。
「…彼は?」
「…なんでもないよ。学校の…友だち。そこで会ったの。…帰ろ。」
これ以上聞かれたくなかった私は何事もなかったように父の手を引き、帰った。
彼から感じた恐怖を、父に悟られたくなかった。