君と春を
君と春を

目覚め




美月が眠って20日が経つ。

「どういうことですか!?」

「…言った通りよ。
明日から、美月の治療は延命措置を取らないものにする。」

「そんなことしたら……!」

「そんなことしたら、今はまだ自発呼吸してるけど、美月が呼吸を辞めたら終わり。

栄養剤とビタミン剤ももう打たない。
おしまいよ。」

淡々と語るのが許せない。

「百合先生!」

「………美月が望んでるの!
私はもう何もしてやれない……」

そこで気付いた。

この人も苦しいんだった。

「あ…すみませ……。」

百合先生は苦しそうに美月を一目見て、病室を去って行った。

そのドアが閉まるのを見届け、美月の側へ寄る。

「はぁ。」

溜息が出てしまう。


救ってやりたい。


でももうダメなのか。


いつものように手を握り、囁く。


「なぁ、美月。聞いてくれよ。


君の声が聞きたいよ。


君の笑顔がみたいよ。


君の……コーヒーが飲みたいよ。」


涙が、頬を伝う。


この気持ちは届いていないのか。


それとも、届いていても起きてくれないのか。


「美月!


………なぁ!


俺の声を聞けよ!


なぁ………!


美月!


お前が必要なんだよ……。


愛してる……。


起きてくれ…………!」


懇願するように伝える。


もうこれが精一杯だ。


頬を伝って君に落ちる涙。


その滴が君の心に染みたら


俺の心も届くだろうか…。



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