君と春を



「美月、おはよ。」

彼が来てくれたのは私が洗髪をしてもらった直後、洗面所でドライヤーをかけてもらおうとしていた時だった。

「お気に入りのシャンプーで髪を洗えば少しは心も軽くなるわ。」

そう言って百合先生が買って来てくれたのだ。

濡れ髪の私をニコニコと眺めていると

「あ、俺が代わります。」

そう言って看護婦さんの手からブラシとドライヤーを受け取った。

髪にブラシを通しながら鏡越しに私の顔を見る。

…朝から上機嫌だ。

優しくドライヤーをかけられていると心地よさと疲れで瞼が重くなっていく。

「終わったよ。眠り姫。」

ちゅっと頬に口づけられたかと思うとフワリと身体が浮く。

「ひゃぁっ!」

「……何その声。」

クスクスと笑いながらベッドへ運ばれる。

ガラス細工を扱うようにそっと降ろされるとまたキスが降ってきた。

頭に、おでこに、瞼に、鼻に…。
労わるような、包み込むような、果てしなく優しいキス。

両方の頬に…そして唇に。

気づけば縋りつくように、彼のシャツを掴んでいた。

「………美月?

もっとして欲しいの?」

その低く響く甘い声は、私の心を芯から震わせる。

「…………」

「ちゃんと、言ってごらん?」

「…………ほ……しい…です。」

「……よくできました。」

そう言って優しく微笑むと私の頭を支えるように手を添え、いつものように唇を親指でなぞり、喰むように、啄ばむように、何度も何度も口づけた。



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