君と春を



通い慣れた彼の家が自分の家になるなんて。

「さ、お帰り美月。」

そういって彼は私を玄関ドアの中に促した。

「…たっ……ただいま。」

誰かにそう言うのは家族を亡くしてから今まで一度もなかったかもしれない。言い慣れないセリフは擽ったくほんのり甘酸っぱく、心に広がった。



< 208 / 222 >

この作品をシェア

pagetop