君と春を



「こんにちは。百合先生。」

定期検査のため訪れたのはもちろん百合先生のところ。

会うのは退院後二回目になるんだけれど。

…あれ?

なんだかいつもと雰囲気が違うような……

「美月。よく来たわね。調子はどう?」

和かに笑うその表情は、10年見てきた中で最もキレイで柔らかい気がする。

「…………」

「なに?どうしたのよ。

そんなに見つめても何もないわよ。」

そう言っているけれど…私にはわかる。

やっぱり違う。

「…百合先生?聞きたいのはこっちです。

どうしたんですか?いつもと雰囲気が違います。

……空気が違う。表情も柔らかいし、なんか……たっぷりと幸せオーラが出てます。

「…っ!?」

………え?うそ……。赤くなった?

驚き、困惑、恥ずかしさ。それらが入り混じったような表情は少なくともこれまで私の前でしたことはない。

「………百合先生?私の前でそんな顔したことなかったですよね。

一体何が………あっ!」

女の勘というべきか、ピンときたその答え。

「……赤ちゃん………ですね?」

その言葉を聞いて更に赤味を増す顔。

うわ…。耳まで赤い。

「…さすが美月。やっぱり見抜いたわね。その通りよ。今6周目。」

「………!」

「……えっ!?ちょっと!

なんで泣くの!美月~。」



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