君と春を



ひと時をすごして店を出て優也の後ろを歩く。

「…どこに行くの?」

「桜が綺麗に見えるところがあるんだ。来て?そしたらもう寮に送るから。」

十数分歩いて着いたのは優也の高校だった。

「こっち。来て。」

校舎の裏に回り、開いていた窓から誰もいない一室に忍び込む。

カーテンが閉められ、薄暗い部屋。

「ね、ダメだよ。帰ろ?」

小声で訴えるけど優也は聞かない。

「ここは普段使ってないから平気。それより見て。ここからのが一番綺麗なんだ。ほら!」

窓際にと急かされてそっとカーテンの隙間から見ると、中庭の桜が満開だった。

「わ……綺麗…」

思わず魅入ってしまう。咲き誇るという表現がぴったりな、古い桜の大木。

…あのまま幸せにいられたなら、きっとこの景色はいつでも一緒に見られたはずだ。

「…っ!」

後ろから、力いっぱい抱きしめられる。首筋に顔をうずめるように俯く優也からは、かつて癒された香りがしていた。

「この桜の木見つけた時から一緒に見たかったんだ。

美月……好きだよ。

本当に…すごく好きなんだ。」

「…………」

微かに彼の手が震えている。

「…………私も好きだった。

ホントに…大好きだった。

でもそれを壊したのは優也だよ?私はもう戻らない。

会うのもこれで最後にする。だから離して。」

決別の意思を鮮明にして、伝える。

切ないけれど、苦しいけれど、一緒にいる訳にはいかない。

「…………わかった。じゃあ……」

「………きゃぁっ!?」



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