君と春を



馬乗りになって見下ろしてくる優也は悪魔のようだ。確かに微笑んでいるのに、瞳が怖いくらい冷ややかに光る。

きっとこの顔は、私にずっと隠してきた狂気の部分だ。

「……力で俺にかなうはずないだろ?

大人しく俺を受け入れろよ。

最初で最後。これで俺から離れられると思えば我慢できるだろ?」

「そんなこと…っ!」

必死に繋がれた手を解こうともがく。

「できるよ。…優しい優しい美月。

これ以上家族や親友を心配させたくないだろ?」

「…っ!」

そうだ。みんな私を心配している。
お父さんもお母さんも学校や茉莉のご両親に、娘を守りたいから助けて欲しいと頭を下げてくれた。

茉莉はいつも、私を守るように寄り添って笑ってくれた。

幼い斗真ですら、『元気のないみつきに』そう言って慣れない手つきでクッキーを作ってくれた。



……抵抗する身体から力が抜ける。



涙が零れる。



もう、委ねるしかないんだ。

「……そう。それでいいよ、美月。一生忘れられなくしてあげるから。

いつか俺以外の好きな男に身体を触られることがあっても…その度に俺を思い出すんだ。

ふふ、それサイコーだろ?美月の心が死ぬまで俺のものだっていう証拠。」

シャツのボタンにかけられる手。

「……っ、や…だ…優也……っ!」

「泣いてるんだ。泣き顔も好きだよ。

俺だけの泣き顔だろ?

…もっと、見せて。」


優也はもう止まらなかった。


私は彼にされるがままその欲望と熱を受け入れた。


後に残ったのは、体の痛みと…


心に深く深く刻まれた大きな傷だった。


< 28 / 222 >

この作品をシェア

pagetop