君と春を



「冬瀬は実家に帰るのか?」

それはきっとお盆休みのことだろう。今年は5連休になっている。

「……いえ、行くところがあるので。」

「へぇ、何処に?」

「………フィレンツェ。」

そう。夏休みはいつもフィレンツェへ行く。

「優雅にバカンス?」

「…そんな理由じゃありません。用事があるので。」

それは私にとってとても大事な用事。

とても大事な『探し物』をしに行く。
見つけたいと願って向こうに行くようになってから何年も経つけれど、まだ見つからない。

「そっか。気をつけてな。」

専務はそれ以上聞かなかった。



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