君と春を



イタリアから戻って1ヶ月が経った。

仕事は相変わらず忙しく、残業もちらほらあった。

外出先での打ち合わせを専務と終え、会社に戻る道を歩く。

日の沈みかけたビル街はまだまだ急ぎ足のサラリーマンが多い。

「きゃっ!」

「おっと!?」

電話しながら歩いて来た一人とぶつかって思わずフラついた身体を専務に支えられてしまった。

大きな手で腰を支えて、自分の方へと引き寄せてくれている。

「……すみません。平気です。」

置かれている状況が恥ずかしくなってパッと離れる。

………あれ?この香りどこかで…?

不意に近くで香った爽やかさは記憶にあるような、ないような……

咄嗟に記憶を手繰り寄せるけど答えには辿り着かない。

不思議そうな顔をしている私を見ながたクスクスと笑う専務はちょっと楽しそうだ。

「何か?…思い出したことでもある?

それより冬瀬、細すぎだろ?ちゃんと食ってる?」

「……ほっといて下さい。」

仕方ないなとでも言いたそうな、ちょっと困ったような笑顔。

その笑顔を見なかったふりをして、私は会社への道を急いだ。



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