君と春を
朝から顔色の悪い冬瀬。
忙しく立ち回っているようにカモフラージュしているけれど、明らかに俺に気づかれないようにしている。
黙って様子を伺っていたけれど…
パソコン画面を見ながらフリーズした彼女に堪らず声をかける。
「顔色悪くない?」
構わないで欲しいという刺々しい雰囲気を全身から出して逃げるように部屋を出ようとするのを見ていると、一瞬のうちに彼女が崩れるように倒れこんだ。
「冬瀬!」
抱きとめるだけで良かったはずなのに、俺の体は無意識に彼女を腕の中に引き寄せてしまった。
震えながら力の入らない身体で抵抗する彼女を諫めるように抱きしめていると、切ないくらい愛しさがこみ上げた。
「俺が側にいる。」
そう聞いて一瞬ピクリと動いた彼女は…
次第に諦めたように力が抜け、
俺に身体を預けていった。
「……冬瀬?」
わずかに聞こえてくる寝息。
そっと顔を見ると安心したような寝顔が可愛らしく俺の心を擽る。
「ふっ……、寝不足?何だよ。」
安堵の溜息がひとつ、零れた。
「…心配しただろ?仕方ないなぁ。」
眠ってしまった彼女を起こさないようにそっと横抱きに抱え直し、そのまま歩いて部屋の鍵を締める。
「……軽すぎだろ?」
そう呟きながらそのままソファに座り、寝顔を見つめた。
こんなに無防備な姿を見せられるなんて思ってもみなかった。
長いまつ毛、陶器のような肌。ふっくらとした唇。体調のせいか色味が足りない気がするがそれでも十分魅力的だ。
……どうしてこんなにこの子が気になってしまうんだろう。
あんなにハッキリと拒絶され、苦しくも距離を置いた。
でも……どうしても………好きだ。
女なんて自分から興味を持ったことは今までなかった。ずっと周りにいたやつを適当に選んで相手してきた。
拒まれたことだって…なかった。
これからもそれでいいはず。
なのにこの子に出会って、この子が気になり始めてから他の女を抱きたいと思わなくなってしまった。
………この数ヶ月で気付いたこと。
冬瀬は決して必要以上に人と関わらない。
俺が嫌いなのかとも思ったがそうではなさそうだ。
他の全ての人間に対して、わざと距離を作って心を閉ざしている。
……何を抱えてるんだろうか。
俺ではそれを…どうにかしてあげられないだろうか。
こんなに細い身体で、体調に不安が出るほどの思いを抱えているのかと思うと、いたたまれなくなる。
「………なぁ、笑顔が見たいよ。
君は本当は、どんな顔で笑うんだ?」
呟きながら唇にハラリとかかる髪をそっと寄せて、そのまま頬を撫で………
そっと…触れるだけのキスをした。