君と春を
アホな男の出現で仕方なく専務室に戻る。
なんで『ひと目見て…』なんて言えるんだろう。イライラする。
いたたまれなくて飛び出した部屋に舞い戻る羽目になるなんて。
…ミルクティー飲みたかったのに。
おそるおそるドアを開けると、専務は……いない。
ホッとしながら仕事を再開する。
専門的な用語も多い資料を、神経を集中して和訳して行く。
ーコトー
目の前に突然ミルクティーの缶が置かれた。驚いて見上げると専務が申し訳なさそうに私を見つめる。
「さっきはほんとにごめん。
……ガツガツ来られても困るよな。
もっとゆっくり……ね。」
「………………」
「冬瀬?」
「…………専務は、私が必死で凍らせてしまいこんだ心を、簡単に見つけちゃうんですね。
でも……わたしがこの心を溶かすことは……ないです。」
『だからもう関わらないで』その気持ちを込めてそう言った。
「………それでいいよ。」
…………今、何て?
思わず見上げる顔は、キレイに微笑んでいる。
「心を溶かすのは俺の役目。
………ってか、反則だろ?その顔。
可愛過ぎて触りたくなる。」
「…………!」
「絶対溶かすよ。冬瀬が好きだから。」
そう微笑む笑顔は温かい。
あぁ、そっか。
この人は『春』だ。
キレイな微笑みも、優しい話し方も。