君と春を



それから数日。

専務の私に対する態度は、仕事でこそ厳しくはあってもそれ以外ではそれまでより更に変わっていった。


何より、甘い。


ランチに呼ぶ時、コーヒーを頼む時、帰り際に挨拶した時。

まるで恋人を呼ぶような…甘さを含んでいるように感じてしまう。

そして私の体調をやたらと気遣う。

「冬瀬?」

「はい、なんでしょう?」

「…顔色悪くないか?少し休む?」

……この調子だ。私はただ会食のセッティングをどこの店にしようか考えていただけなのに。

百合先生はいったい何をこの人に吹き込んだんだろう。

しかも、…近い!

至近距離で顔を覗いて来ないでほしい。

「いえ、会食をどこでするか考えていただけです。」

必死で平静を装ってした私の返事を聞いて、専務はやっとホッとした表情でデスクに戻って行った。

キツキツだったはずの仕事量も心なしか減らされていて……、自分だって大変な量の仕事があるのに私を気遣っているのかと思うと胸がキュッとなった。


…でもそれは私にとって歓迎することではない。


構わないで欲しい。


関わらないで欲しい。


なのに……


どうして。


彼を見ていると心が少し温かくなっているのを感じる。


そして同時に、不穏な痛みをうっすら感じる。

ふと、窓の外を見やると桜の木はもうすっかり秋の寂しい姿に変わっていた。


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