君と春を
冬瀬と病院で偶然会った翌朝、俺は主治医だという先生から電話を貰った。
「遠回しは嫌なの。ハッキリ聞かせて。
あなたは美月をどう思ってるの?
わかってると思うけど私は心を診るプロよ。」
「……………」
強気でくる百合先生。そう、この人には適当は通用しないだろう。
俺の気持ちは…
「好きですよ。一度は拒絶されてますけど…簡単には諦められません。
……笑われるかもしれませんが本気になるなんて初めてで…。」
気づけば包み隠さず話してしまっていた。
今まで周りには幾らでも女がいたこと。
好きになるなんてなくても抱ければそれでいいと思ってきたこと。
なのに何故か冬瀬に出会ってから他の女を抱きたいと思わなくなったこと……。
恥ずかしいくらい…言ってしまった。
「なるほど。歪んでるわね。」
「自分でもそう思います。でも、本当に本気です。
彼女は『俺』じゃなく、『人間』全てを拒絶してる。何が原因かはわからないけど。そうしなければと思ってる。
だからこそ俺の存在や俺との関わりを嫌う……違いますか?
その心を溶かしたい……そう彼女に伝えました。そのチャンスを…下さい。」
「………」
「先生?」
「……よく、聞いて。
詳しくは言えないけれど、あの子はもうずっと何年も、冷たくて悲しくて苦しい思いを抱えてる。
心が粉々になるどころか、それが風に吹かれて消えてなくなるくらい全て失ったから。
貴方が想う相手の心は、もうずっとボロボロなの。次に壊れたらもうきっと……取り返しがつかない。
だからこそ私は心配なの。
中途半端な気持ちで近づいて欲しくないの。
美月には絶対的信頼の中で深く愛して包み込んでくれる人が必要。
そして……残念だけどそれは私の役目じゃない。
………昨日の貴方の様子を観察させて貰ったわ。
……貴方がもし本気であの子を想うなら、本気で心を溶かしたいと願うなら、絶対に何があっても裏切らないと誓えるなら、私も協力する。
でもそこまでじゃないなら…近づかないで。」
「それは、俺は合格だってことですか?」
「……ま、信頼はしていいと思った。商売柄、人を見る目はあるつもり。
…私はこれ以上、美月を傷つけたくないの。
あの子が苦しむ姿はもう…見たくない。」