君と春を
ユーロスターでフィレンツェに到着する。まさかここに、専務と来るなんて。
仕事をしていても思うけれど、この人の決断力と行動力は目を見張る。
「ここにはいつも何しに来るの?」
街並みを見ながら歩いていると突然そう聞かれた。
「……本を探しにです。」
いつもの私ならならそんな話誰にもしない。
……なのに、気づくと話してしまっていた。
亡くなった両親の思い出の本を探していること。この街で見つけたい意味。両親が出会った古書店のご主人が協力してくれていること。
歩みを緩めて話を聞くその表情は真剣そのもので…気づくと、私を気遣ってくれているように大きな手がゆっくりと頭を撫でてくれていた。
そしてその手から感じる温もりと優しさに、私は包み込まれるような安心感を覚えていた。